「6月の花嫁は二度死ぬ」山谷逃避行(8)をカクヨムにアップしました

借金の返済が終わったのに、取立人が勝手に取り立ててじぶんの懐に入れているにちがいない。
老人の代わりに怒ってもせんないことだが、むしろさっきの取立人がいった、
「ひと殺し」
のひと言が気になった。
この老人は、ほんとうにひと殺しなのだろうか?
そんなことを考えていると、
「あんた、本は読むかい?」
と老人がたずねた。
「まあ、ひと並みには」
「今になって、本気で本を読みはじめたが、・・・遅すぎたな」
老人は、心底後悔しているようだった。
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「6月の花嫁は二度死ぬ」山谷逃避行(7)をカクヨムにアップしました

昼すぎからは、アーケード街のとば口の立ち飲み居酒屋へ出かけた。
鯖缶とビールをオーダーすると、左奥に先客が三人いたので、昨日と同じように、右奥の鶴のようにやせた白髪白髭の老人の隣に回された。
老人は、昨日と同じように、茶褐色になった岩波文庫を開いて目の前に、横には舛酒を置き、読んでは飲み、飲んでは読む、を規則正しく繰り返していた。
缶ビールが空くころ、鳥打帽にニッカボッカ姿のガタイのいい男が店に入って来てあたりを見回し、つかつかと老人に近寄った。
「今月の払いはどうなった!」
男は、背後からいきなり肩をつかみ、老人をじぶんの方へ向かせた。
「いつまでも払っておれんが・・・」
と、口答えする老人の胸倉をつかんだ男は、
「契約を守れよ。ひとの道に外れてはいかん!」
男のいかつい風貌と、契約とかひとの道ということばが、あまりにかけ離れているのがおかしい。
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6月の花嫁は二度死ぬ・処女凌辱(8)をカクヨムにアップしました

階段すぐ右手の白いベッドに、純白のウエディングドレス姿の女が横たわっていた。
ベッドの横に、純白のデコラ張りのドレッサーやチェストが並んでいた。
・・・ここは、彼女の寝室なのだろうか。
だが、彼女の顔は真っ青で、身動きひとつしない。
よく見ると、ウエディングドレスの左胸に、赤い薔薇のような血が滲んでいた。
ああ、・・・彼女は死んでいる。
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