鬼火(第十夜・大団円)-「寛政捕物夜話」連作短編集-

「やつらは山師ではなかったのか?」
政五郎が、畳んだ布団にもたれて浮多郎にたずねた。
・・・最近は、政五郎の体調はだいぶよくなって来たようだ。
「一攫千金を狙って、あちこち金脈を探し歩いたようですが、うまくいくはずもなく、やがて徒党を組んで強盗を働くことになったのです。国を跨いで悪事をするので、長いこと捕まらなかった」
「お好と所帯を持ってお光が生まれたので、忠吉が足を洗おうとしたのがつまずきのもとだったのか」
「お光といえば、大家が身請けしたそうじゃないかい」
政五郎が、羨ましそうにいうので、浮多郎はあわてた。
「あ、いや。身請けしないと吉原から抜け出せないので、そうしたまでで、大家さんはお光を養女にするようですよ」
そんなふうに答えた浮多郎だが、雑木林の祠の下の千両箱は、すでに大家に預け、その金でお光を身請けし、嫁ぐときは持参金として持たせる約束を交わした。
―しばらくすると、浮多郎は三ノ輪の吉田屋に呼び出された。
岡埜は特段の用もなく、単に吉田屋の蕎麦を食べたかっただけのようだ。
女将の酌で盃を重ねた岡埜の下駄のような顔は真っ赤だった。
「よう、泪橋のお役者目明し、景気はどうだい。もっとも『色男、金と力はなかりけり』とは、お前のことだがな」
いつものように浮多郎を冷やかす岡埜だが、急に真顔になり、
「ふたりの盗賊は、ぜんぶ白状したぜ。弦蔵殺しもお好殺しもな。だが、どうしてやつらが雑木林にもどって来ると、分かったのだ?」
と、たずねてきた。
「おそらく、弦蔵は雑木林が怪しいと頭に報告していたと思われます。それで、たまにやってきて歩き回ったのでしょう。が、ついにはあきらめました。業を煮やした頭は弦蔵が独り占めにしたと思い込み、江戸へやってきて、弦蔵を雑木林で逆さに吊るして拷問して吐かせようとしました。しかし、あっけなく死んでしまったので、次はお好を拷問にかけて、忠吉が家の床下に隠していたことを聞き出しました」
岡埜は、盃を手にしたまま黙って話を聞いていた。
「ところが、床下にはもともとお宝がなかったのです。これは、あっしが床下にもぐってよく見ましたら、お宝を置いた形跡がまるでありませんでした。これはやつらも同じで、やはり雑木林しかないと思い、必ずそこへもどって来ると思った次第で」
「弦蔵の耳の後ろに錐で穴を開ければ、聞き出せたものを。なまじ聞きかじりで大きく開けたばかりに、早く死なせてしまった。殺し損、殺され損とはこのことよ」
お好も殺され損に入っているのかは、分からない。
「ところで、今後このような時は、必ず奉行所にいってこい。東洲斎などに頼むなどあってはならぬことだ」
岡埜は、盃をお膳に叩きつけると、座を立った。
―しばらくすると、お光が艶やかな町娘のいで立ちで、泪橋にやってきた。
「あらっ。お光ちゃん、お綺麗だこと」
応対に出たお新が褒めると、はにかんだお光は頬を染めた。
奥座敷から顔を出した浮多郎を見ると、
「若親分さん、おっかさんの仇を討ってくださり、ありがとうございました」
お光は、三つ指を突いて頭を下げた。
十日も郭にいなかったお光だが、作法はしっかり学んだようだ。
・・・ずいぶんと高い教授料だったが。