著作の紹介

武蔵、最後の戦い

作者の吉川英治も明言しているように、「宮本武蔵」は小さな史実を元に描いた、壮大なフィクションです。
読者はフィクショナルな主人公の実在を疑わず、彼に人生指南役まで託す、幸福な長編小説のひとつといえます。
しかし最近の歴史学の傾向として、史実の検証が進めば進むほど、その人物像がくっきりと浮かび上がるどころか、逆にその人物の業績や実在までもが疑われる由々しき事態となるのはどうしたことでしょう。
宮本武蔵も例外ではありません。
最近では、「武蔵はどうも関ケ原では戦わなかったようだ」「佐々木小次郎はよぼよぼの爺さんだった」などと、泉下の吉川先生ものけ反るような学説が喧伝されています。
しかし、巌流島での決闘の5年後の大坂夏の陣に、武蔵が徳川家康側近の水野勝成の客将として参戦した事実がはっきりしたのは、大きな成果です。
「武蔵、最後の戦い」は、武蔵が大坂での冬と夏の戦いに、どのような経緯で参戦し、どう戦ったかを描いたクロニクル小説です。
最初の弟子となる服部左門之助、少女のような花魁の春華太夫、後に吉原を創始する庄司甚右衛門との出会い。将軍家兵法指南役・小野忠明との果し合い、兄事する本阿弥光悦、公家の烏丸光広卿、豪商灰屋紹由、(長岡)佐渡守との再会と、彼らの策謀をからめて波乱万丈に物語は展開します。
夏の陣では、後藤又兵衛や真田幸村とも対峙します。
大坂落城後は、キリシタン武将の明石全登との戦い、柳生宗矩との遭遇、千姫の本多忠刻への降嫁、養子の三木之助の悲劇など・・・武蔵をさらなる試練が待ち受けます。
これは、吉川英治版「宮本武蔵」の続編です。

逆さ十字架の謎 ー寛政捕物夜話Ⅲー

寛政六年(1794)の宵雛に、首のない大黒屋徳兵衛の死体が逆さ十字架に磔となって発見された。その根元には、ひとり娘の那美の許婚で歌舞伎役者の結之助が匕首で自ら喉を突いて倒れていた。
前夜、お役者目明しと異名をとる泪橋の浮多郎は、昨年末に磔で処刑された隠れ切支丹の頭領の土饅頭の上で、やはり首のない死体が逆さ十字架上で燃え上がるのを、なすすべなく見るだけだった。
そんな中、千住の汐入の浜と向島の葦原で、六六六の人文字となった大勢の隠れ切支丹が焼き殺される事件も起こった。幕府の要人による切支丹狩りと喝破した東洲斎は、日本の魔王たらんとする枝野嘉右衛門と対決する。
片や、ニヒルな美剣士の東洲斎は洒落斎の助けを借りて五月の歌舞伎興行の役者の大首絵を描きはじめる。
しかし、お上は描き溜めた下絵を保管する版元の蔦屋重三郎の倉庫を焼き討ちにし、吉原に放火して東洲斎を討とうとする・・・
隠れ切支丹がからんだ連続殺人事件の謎と、この年の九か月に役者絵など144枚を残して忽然と江戸の闇に消え去った東洲斎写楽の正体の謎のふたつの謎が本著で解き明かされます。

東洲斎江戸切絵図 ―寛政捕物夜話II-

泪橋の新米目明し浮多郎は谷中の仏善寺へ招かれ、修行僧の唯念がお布施をくすねて吉原通いをしているので諫めてほしいと頼まれる。
さっそく唯念の通う角屋の雛菊を訪ねると、朝霧太夫の座敷で東洲斎と出会う。
小日向の旧切支丹屋敷に捕らえられた江戸の隠れ切支丹を東洲斎が解放したとの噂が立つ中、水揚げの迫った雛菊を足抜けさせようと唯念が画策する。
しかし、一歩先に雛菊の父親、じつは凶悪な盗賊の九兵衛が手を打っていた。罠にはめられる唯念。
せっかく五月興行の歌舞伎興行の役者絵を蔦屋重三郎に頼まれたのに、大田南畝の横やりで断念することになった東洲斎は酒に溺れる。東洲斎は唯念を救うことができるのか・・・

写楽な恋 ―寛政捕物夜話―

ミステリアス写楽が江戸のミステリーを斬る!! 悪魔と隠れ切支丹のバトルが始まった!
十ヶ月だけ役者絵で江戸を騒がせ、忽然と消えた写楽――。三ノ輪の寺に髪を刈られ、顔を焼かれた女の死体が投げ込まれた。連続する殺人事件。謎が謎を呼び、江戸に戦慄がはしる。泪橋の新米目明し浮多郎は、写楽の助けで初手柄をと焦る。蔦屋重三郎ゆかりの歌麿、京伝、北斎、馬琴たちが、悪魔が降臨した江戸の街を欲に憑かれて走る。写楽と浮多郎は果たして真相に迫れるか。